【東京五輪】スポーツクライミングの競技ルールをわかりやすく解説!

東京2020オリンピックのスポーツクライミング競技は1人で3種目(写真左からスピード、ボルダリング、リード)をこなす「複合」で実施される。

 東京2020オリンピックで“五輪デビュー”を果たすスポーツクライミング。今大会の実施種目である「3種目複合」の競技ルールをわかりやすく解説していく。

関連記事:東京五輪|スポーツクライミング【競技日程・テレビ放送予定】

「スポーツクライミング」とは?

 自然の岩場を道具に頼らず自身の手足だけで登る「フリークライミング」が時代とともに進化していく中で、純粋にスポーツ性が強調され、競技としてのスポーツクライミングが確立された。選手は「ルートセッター」が人工壁に配置したカラフルな「ホールド」を手がかり、足がかりとして、素手とクライミングシューズのみで壁に挑む。種目によって安全確保のためのロープなどを装着するが、登るための道具の使用は許されない。

 どれだけ速く登れたかを競う「スピード」、課題をいくつ登り切れたかを競う「ボルダリング」、どこまで高く登れたかを競う「リード」の3種目があり、東京五輪ではこれらを1人で行う複合(コンバインド)でメダルを争う。スピード→ボルダリング→リードの順に競技を行い、各種目の順位をかけ算した数値の小さい順で総合順位が決定。男女それぞれ予選には20名が出場し、総合順位の上位8名が決勝に進出する。

第1種目:スピード

写真:© IFSC/Eddie Fowke

 「どれだけ速く登れたか」を競うスピードは、高さ15m、95度に前傾した壁にセットされた世界共通のコースで行われる。選手は命綱であるロープを装着し、最上部のゴールパッドを目標に駆け上がる。

 予選はタイムレース方式。同じコースが隣り合わせで2レーンあり、それぞれ1回ずつ計2回の試技で、より速いタイムが予選記録として採用される。1度でもフォルススタート(フライング)すると、その時点で失格、最下位となる。

 決勝は予選と異なり、対人戦によるトーナメント方式で行う。いくら速いタイムを出しても、対戦相手より先にゴールパッドを叩かなければ意味がない。初戦の勝者4名と敗者4名でトーナメントを組み、1位から8位までを決める。

第2種目:ボルダリング

写真:© IFSC/Eddie Fowke

 「いくつ登り切れたか」を競うボルダリングは、高さ4~5mほどで様々な傾斜がある壁にセットされた複数の課題(ホールドの配置で作られたコース)を登る。課題の最上部にある「TOPホールド」を両手で保持すれば「完登」。また、課題のおよそ中間部には「ゾーン(ZONE)」のマークがついたホールドが設定されていて、そこに到達できたかどうかも「ゾーン獲得数」として成績に反映される。

 スピードと違い、課題は大会ごと、ラウンドごとに変わり(壁の形状も大会会場によって異なる)、ホールド間をジャンプするようなダイナミックなムーブから静的で繊細な動きまで、その内容は様々。どのような課題が出てくるのか選手たちは事前にわからず、競技前の「オブザベーション」(課題の下見)で完登までの道筋を思い描く。公平性の観点から他選手の登りは見ることができず、競技時以外はアイソレーション(隔離)エリアで待機する。

競技前にオブザベーションする選手たち。ライバル同士でも互いに相談し合う様子は、スポーツクライミングならではの光景だ(写真:© IFSC/Eddie Fowke)

 予選の課題数は4つで、1課題あたりの制限時間は5分間。5分ずつの競技と休憩を繰り返すベルトコンベア方式で行われる。途中で落下しても繰り返しトライできるが、制限時間に達した場合はその時点で競技終了となる。順位は「①完登数」「②ゾーン獲得数」「③完登に要した合計アテンプト数(少→多)」「④ゾーン獲得に要した合計アテンプト数(少→多)」の順番で決定する(アテンプト=トライすること)。

ボルダリングのリザルト参考例。まず完登数(T=Top)の多い順、次にゾーン獲得数の多い順(z=zone)で優劣をつけ、それらが同数の場合は、カッコで記されている(左から)合計アテンプト数の少ない順、続いてゾーン獲得に要した合計アテンプト数の少ない順で順位が決定する。(提供:JMSCA)

 決勝は課題数が3つに減り、1課題あたりの制限時間も4分間と短くなる。競技進行も予選から変わり、1つの課題を全員が終えた時点で次の課題に移るW杯決勝方式で行う。また、競技前には各課題2分間のオブザベーションタイムが与えられる。順位決定方法や、制限時間内であれば何度でもトライできる点は変わらない。

第3種目:リード

写真:© IFSC/Eddie Fowke

 「どこまで高く登れたか」を競うリードは、高さ12m以上の壁に設けられた1つの課題を、ロープを支点にかけることで安全を確保しながら登る。手で使用することが想定されたホールドに番号が振られ、上に進むほどその数は大きくなる。3種目複合におけるリードの手数は40前後であることが多い。

 ボルダリングと同じく、課題内容は大会ごと、ラウンドごとに変わる(他選手の登りを見られない点も同様。壁の高さと形状は大会会場によって異なる)が、トライは1回のみでやり直しができない。落下直前に保持したホールド番号が高度として記録され、その大きい順で順位を決める。TOPホールド付近にある最終確保支点にロープをクリップする(かける)と完登となる。落下前に次へのムーブを起こした場合は「+」が付き、同高度の選手より上位に立つ。

 予選・決勝ともに用意される課題は1つで、制限時間は6分間。競技前には6分間のオブザベーションタイムがある。「+」も含めて同スコアで並んだ場合は、競技開始から落下まで(完登の場合は完登まで)の時間が短い選手が上位になる。

リードのリザルト参考例。同じ成績で並んだ場合は、落下まで(完登の場合は完登まで)の時間が短い選手が上位になる(提供:JMSCA)

総合順位決定方法

 冒頭で述べた通り、各種目の順位をかけ算した数値の小さい順で総合順位を決める。足し算ではなくかけ算のため、いずれかの種目で1位を獲得すると俄然有利に。順位が並んだ場合は、その選手間で順位が上の種目が多いほうが上位になる。

複合のリザルト参考例。1位選手の15ポイントは5位×1位×3位で算出。6位と7位の選手は複合ポイントで並んでいるが、2種目の順位で上回っている選手が上位になる。(提供:JMSCA)

3種目複合の見どころ

 スピードは瞬発力、ボルダリングは様々な課題への対応力、リードは持久力など、各種目で求められる能力が異なり、またそれらを1日でこなす体力も必要である。選手によって得意種目が分かれ、第1種目のスピードに特化した“逃げ切り型”から、最後のリードで圧倒的な力を誇る“追い込み型”、日本代表の楢崎智亜や野中生萌のようにスピードとボルダリングでトップレベルの選手、日本勢のライバルであるアダム・オンドラ(チェコ)やヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)のようにボルダリングとリードの両方で強い選手まで、タイプの違いにも注目だ。

特集:東京五輪|出場選手名鑑

CREDITS

編集部 / 写真 窪田亮

back to top