どうなる? パリ五輪スポーツクライミング日本代表争いのゆくえ

 今年の国内スポーツクライミングシーンは、2月から4月にかけて「ボルダー」「リード」「スピード」「ボルダー&リード」の順にW杯や世界選手権の日本代表選考を兼ねた各種目のジャパンカップが行われた。と同時に、2024年パリ五輪出場に近づいた選手たちが見えてきた。本記事ではボルダー&リード種目を中心に、パリ五輪出場をかけた国内選考レースの現状を解説する。

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 パリ五輪の出場権がかかる大会は複数あり、今年8月の世界選手権(スイス・ベルン)を皮切りに、年内の大陸別予選、来年3~6月の予選シリーズまで続く。東京五輪では1人の選手がスピード、ボルダー、リードを行う3種目複合でメダルを争ったが、パリ五輪ではスピードが独立するため、「ボルダー&リード」と「スピード」のそれぞれで五輪出場をかけた戦いが繰り広げられる。パリ五輪の出場可能人数と各選考大会は以下の通り。

パリ五輪出場人数

ボルダー&リード種目:男女20人ずつ
スピード種目:男女14人ずつ

※1つのNOC(国内オリンピック委員会)につき出場可能人数は男女2人ずつまで

パリ五輪選考大会一覧

【世界選手権】
日程:2023年8月1~12日
開催地:スイス・ベルン
五輪内定条件:ボルダー&リード=上位3人、スピード=上位2人

【大陸別予選】
日程:2023年9~12月(アジア予選は11月9~12日)
開催地:各大陸によって異なる(アジア予選はインドネシア・ジャカルタ)
五輪内定条件:ボルダー&リード=上位1人、スピード=上位1人(5大陸で各種目5人ずつが内定)

【予選シリーズ】
日程:2024年3~6月
開催地:未定(3都市を予定)
五輪内定条件:ボルダー&リード=上位10人、スピード=上位5人

※世界選手権でパリ五輪代表男女各2人が決まらなかった国は、代表決定は大陸別予選に持ち越され、そこでも決まらなかった場合は予選シリーズに持ち越される
※ボルダー&リード種目、スピード種目ともに開催国枠1人、ユニバーサリティ枠1人が加わる

 最初の選考大会である世界選手権では、ボルダー&リード種目の上位3人に五輪出場権が与えられる。同選手権のボルダー&リード種目には、同選手権のボルダー、リードの各種目に出場した上で複合成績上位20人に入らないと出場できない。同選手権のボルダー、リード、スピードそれぞれの各国出場可能人数は5人(IFSC枠で出場可能な前回優勝者は除く)となっている中、日本の中央競技団体JMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)はボルダーとリードに同じ5人の選手を派遣すると発表。日本独自の選考基準で、すでに以下の男子3人、女子2人が内定している。

世界選手権 日本代表内定選手(ボルダー&リード)

1枠目:男子=安楽宙斗/女子=森秋彩
 ※ボルダー&リードジャパンカップ1位
2枠目:男子=楢崎明智/女子=※1
 ※ボルダー、リードの各ジャパンカップによる複合ポイント1位
3枠目:男子=百合草碧皇/女子=松藤藍夢
 ※ボルダー&リードジャパンカップ2位
4枠目:未定
 ※W杯のボルダー1大会+リード1大会による複合ポイント1位(※2)
5枠目:未定
 ※W杯のボルダー1大会+リード1大会による複合ポイント2位(※2)

※1:森秋彩が1枠目と2枠目で重複したため、女子はW杯のボルダー1大会+リード1大会による複合ポイント3位が5枠目の次に派遣される
※2:対象となるのは7月10日までに開催された中で各種目の最上位だったW杯各1大会

 上記でわかる通り、ボルダー&リードで残りの男子2枠、女子3枠を争うのはW杯でボルダーとリードの両種目に出場できる選手に限られる。該当するのは第6期パリ五輪強化選手に選ばれている、もしくは両種目で日本代表に入っている以下の男子3人、女子6人。

世界選手権 日本代表候補選手(ボルダー&リード)

男子:楢崎智亜、緒方良行、小俣史温
女子:伊藤ふたば、野中生萌、小池はな、関川愛音、中川瑠、久米乃ノ華

※関川より前の男女6人はパリ五輪強化選手

 世界選手権の出場をかけて、W杯2種目の成績に基づいて男子は上記3人で2枠を、女子は上記6人で3枠を争う。複合ポイントはW杯の順位に応じて与えられるポイント(1位1000ポイント)の2種目合計で算出する。なお、日本代表選手の中にはパリ五輪強化選手を上位としたW杯に出場するための優先順位があり、パリ五輪強化選手ではない関川、中川、久米は7月10日までのW杯に2種目それぞれで出場できるとは限らない点は留意しておきたい。

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 世界選手権の代表内定・候補選手がパリ五輪出場に向けて前進した一方、ここまでに名前を挙げていない選手は11月のアジア予選で優勝するしかパリへの道は残っていない状況となる。来年の五輪予選シリーズには今シーズンのボルダーとリードの各W杯の成績で決めるボルダー&リード世界ランキング上位選手しか出場できないとされており、今シーズン両種目のW杯に出場できなければその可能性は絶たれる。アジア予選に関しても、出場基準等がJMSCA側に通達されていないといい、また世界選手権で五輪日本代表男女各2人の枠が埋まらなかった場合にチャンスが巡ってくる状態で、アジア予選に出場できるかどうかは不透明だ。

 楢崎智亜、原田海、野口啓代、野中生萌が出場し、野中が銀、野口が銅メダルを獲得した東京五輪。2024年は誰が日の丸を背負って大舞台に上がるのか。4月に開幕したW杯シリーズ、そして8月の世界選手権では、五輪代表選考レースのゆくえにも注目したい。

 なお、スピードに関しては、JMSCAは最初の選考大会である世界選手権にパリ五輪強化選手のランクが高い順から派遣する規定を定めている。現時点でSランクに名を連ねる大政涼、安川潤が有利な位置に付けるが、7月10日までの公式記録などで新たにSランクに入る選手が現れる可能性もあり、ボルダー&リードに比べるとまだ流動的だ。

CREDITS

取材・文 編集部 / 写真 窪田亮

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