FEATURE 123

東京五輪 直前インタビュー

野口啓代 最後の舞台、キャリア最高の2日間に


競技人生を締めくくる五輪に向け「今は自分が楽しむことに集中している」。常に走り続けてきた野口啓代は、最後まで見る者をワクワクさせてくれるはずだ。

※本記事の内容は2021年6月発行『CLIMBERS #020』掲載当時のものです(このインタビューは2021年6月14日にオンラインで収録されました)。
 
 
初めに、コロナ禍の影響で約1年半ぶりの出場となったW杯の感想から聞かせてください。ボルダリングでは4月16、17日の開幕戦マイリンゲン大会で4位、5月29、30日の第3戦ソルトレイクシティ大会で18位という結果でした。

「W杯の課題と自分が練習している課題とで、ちょっとズレがあったというか。強度の高い課題や難しい課題をたくさんトレーニングしてきたので、そこはしっかり対応できたのですが、緩傾斜壁のバランシーな課題であったり、難易度はそこまで高くないけどアテンプトを少なく登らないといけないような課題の練習がまだまだ足りていないと感じました」

スピードでは5月28日のソルトレイクシティ大会で初めて決勝に進出しましたね(13位)。

「ソルトレイクシティ(アメリカ)では時差ボケがあってボルダリングもスピードもベストパフォーマンスとはいきませんでした。スピードは決勝に進出できていい経験になりましたが、いいタイムは残せず残念でしたね」

東京五輪で競技からの引退を表明している野口選手にとっては、16歳から出場してきたW杯も今年が最後になります。

「やはり寂しいですし、本当に残りわずかなので、楽しみたい気持ちが大きいですね」

15年以上も国際大会の第一線で活躍してきましたが、ご自身ではなぜ続けられたと思っていますか?

「大会に何回出ても、何回優勝しても、どうしても登れない課題はあるし、常に勝てるわけではない。今はスピードもやっていますが、そうしてやることが増えれば増えるほど、練習量や内容など求められるものも増えてくる。やってもやっても追いつかない、満足することがなかったというのが一番大きかったと思います」

五輪に向けて、今の仕上がり具合は?

「大会ではなかなか練習の成果を発揮できていませんが、すごくいい状態で3種目ともバランス良く仕上がってきていると思います」

これまで五輪を目指してきた道のりを振り返ると、どう感じていますか? 順調だった? それとも苦労が多かった?

「うまくいかないことのほうが多かった印象ですけど、『世界選手権で内定を取る』という大きな目標は達成できて、3種目のバランスは良くなり、スピードのタイムも上がってきている。苦労はすごくしましたが、結果がついてきているのでやりがいがあるし、充実した時間でした」

五輪の競技当日まで2カ月を切りました。この先どのように調整していきますか?

「バランス良く、各種目とも練習量を増やしたいと思っています。W杯のインスブルック大会(6月23~26日)から帰国したら、実際の競技時間に合わせて本格的なシミュレーションもしたいと考えています」

五輪に向けて、ゲン担ぎなど何かやっていることはありますか?

「ゲン担ぎ的なことはしていませんが、毎日オリンピックのことはイメージしていますね。以前はそんなに本番を想像することってなかったんですけど、ここ最近になって、スピードの練習では『これがオリンピックだったら』というイメージで本気トライをしたりしていますし、『このシチュエーションや課題がオリンピックなら』と想定することが増えましたね」

イメージで言えば、コンバインドの3種目それぞれで理想の順位はありますか?

「この種目でこの順位を取りたいというより、3種目ともベストパフォーマンスを出したいという気持ちが大きいです。スピードならベストタイムを更新したい、ボルダリングなら自分がしっかり登れる課題を無駄なトライをせずに全課題完登したい、リードなら決勝できちんと完登したい、というように。順位は自分1人の問題ではないので、全種目でベストを尽くせたら勝手に順位もついてくるのかなって」

5月には楢崎智亜選手、池田雄大選手とYouTubeチャンネルを開設されました。周囲の反響はいかがですか?

「練習やW杯後の隔離期間もあって高頻度で投稿できてはいませんが、それでもコメントをくださったり、登録してくださる方が増えていて嬉しいですね。クライミングをする人がもっと増えたり、クライマーの方々の楽しみや成長に繋がればいいなと思ってやっています」

五輪に向けた調整が続く中、動画を撮ることはリフレッシュにもなっているのですか?

「リフレッシュにもなりますし、これまでそんなにやることがなかったレスト日の楽しみになっています。楢崎選手と池田選手がもともとカメラや撮影が好きで、だいたい2人で話し合って企画していますね」

コロナ禍での五輪開催については、どう考えていますか?

「開催されるかどうかは自分で決められることではないので、もちろんあるからにはめちゃくちゃ頑張るし、それを目標にしてきました。もし再延期や中止になってしまっても、それはそれで仕方がないことだと思っているので、自分ができることを今はやるだけです。こういう状況で開催されるとなれば、絶対に後悔させないようなパフォーマンスを自分はしなければいけないと思いますし、オリンピックが終わった後に世界中の方々が『大変な状況だったけど開催されてよかった』と思える大会になるように、そのお手伝いができればいいですね」

五輪で初めてスポーツクライミングを観戦する方も多いと思います。どういう姿を見せたいですか?

「ベテランの強みじゃないですけど、今までの自分のキャリアや経験が出せたらいいですね。それでクライミングに興味を持ったり、オリンピックに出たいなと思う子どもたちが増えるきっかけになってくれたら嬉しいです」

最後に、五輪での目標を教えてください。

「オリンピックで登る予選と決勝を、自分のキャリアの中で最高の大会、最高の2日間にすることが一番の目標です。『こんなに登れると思わなかった』というような、自分の想像を超えるパフォーマンスが出せたらいいなと思いますし、観ている人がワクワクするような、『本当に引退するのかな?』と思われるほどの登りを見せられたら嬉しいです。この1年間、オリンピックのこと、結果のことを考えすぎて楽しくないな、練習つらいなっていう思いをたくさんしてきました。だから今は結果よりも、まずは自分が楽しむことに集中しています。それで結果的に金メダルを取れたら、最高ですね」

CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 Marco Kost/Getty Images

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PROFILE

野口啓代 (のぐち・あきよ)

1989年5月30日生まれ、茨城県出身。TEAM au所属。ボルダリングで日本人最多となるW杯年間優勝4回やジャパンカップ9連覇の記録を持つ。世界選手権2019コンバインドで準優勝し、五輪代表に内定。大会後の引退を表明しており、競技人生の集大成として臨む。(写真:窪田亮)

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