安楽宙斗「自信を持てるようになった」【ボルダー&リードジャパンカップ2023】男子決勝後の選手コメント

 8、9日に鳥取県立倉吉体育文化会館/倉吉スポーツクライミングセンターで行われたスポーツクライミングの世界選手権代表などを決めるボルダー&リードジャパンカップ(以下BLJC)。男子は16歳の安楽宙斗(そらと)がリードで唯一完登するなどし、前身大会のコンバインドジャパンカップ2022に続く2連覇を達成した。

 今大会の1、2位に入った選手は8月にスイス・ベルンで開催される世界選手権のボルダー、リード両種目の日本代表に内定。同選手権の後半に行われるボルダー&リード種目で表彰台に上がればパリ五輪の出場権を獲得できる。世界選手権代表に内定したのは安楽と百合草碧皇。その一方で、実績のある選手たちは若手の台頭を抑え切れず、緒方良行、楢崎智亜は世界選手権行きがW杯での成績に持ち越しとなり、藤井快(世界選手権には前回優勝したボルダーのみ出場できる)はパリ五輪出場の可能性が限りなく小さくなってしまった。以下、男子決勝を戦ったファイナリスト8人のコメント一覧。

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安楽宙斗(優勝)
「2連覇という結果がすごく胸にしみてうれしい。ボルダリングはBJC(ボルダージャパンカップ)のように難しくなると思っていたが、あまり力を使わない“動き系”の課題が多かった。僕はそういうのが得意なので、オブザベーションの時点で2、3完登はしてみんなに点数で離されたくないという感じで臨んだ。リードはオブザベした瞬間に、最近求められる持久力系の課題で、パワフルでもなく、ムーブのミスなく完璧に登らないといけないのかなと感じた。裏のアイソレーションルームにもルート図があったので、よく見て、もし想像通りにいかなかったらどうしよう?というふうに選択肢をいろいろ考えて臨んでいた。(完登の瞬間は)たぶん優勝が決まったのかなという思いでついガッツポーズしてしまった。

 (今年の大会は予選で良くてもその後に順位を落としてしまっていたが?)登る前によく緊張していたのが、だいぶ落ち着いて臨めるようになったと思う。練習の努力が結果に繋がって自信を持てるようになったので、そこが大きい。自信によって最近は緊張もそれほどなく、逆に楽しむという感じで思い切ってできている部分はある。ユースC・Bくらいの時は、他の選手より練習に対する気持ちや量は正直劣っていたけど、最近は世界に行けるような実力が付いてきたことで、プロ並みの意識を持って練習に取り組んでいる。それが自信になっていると思う。持久力のトレーニングや、遠征も大会がない時でもほぼ毎週行っていて、そういった練習に対する行動があるので『今までやってきたから大丈夫だろう』という感じで臨めている。

 (今大会で代表に内定した世界選手権については?)去年から五輪(に出られる)と言われていたけど、さすがに無理だろうと思っていた。それが今回五輪強化選手になって世界選手権に出られることになった。W杯をはじめ世界での大人の大会も今年が初めて。今年はいろいろ大会が続いて世界選手権がゴールになってくると思うので、練習を欠かさずに頑張りたい」


百合草碧皇(2位)
「この結果にすごく驚いている。国内戦はいつも国際戦と違って自分の登りができないことが多いが、今回は最後までやり切れたのでとても満足。国際戦だともう楽しむだけという感じで何も気にせず登れるが、国内戦はいつも結果がチラついてしまいあまり集中できず、あえて安全な道を取ったりして集中できなかったりする。今回は五輪を目指す上では大事な大会だけど、そういうことはあまり考え過ぎず純粋に楽しもうとか頑張ろうとかそういうことを考えて競技に集中していた。ボルダリングもリードも課題の相性が良くて運が良かった部分が大きいと思っているので、これから始まる国際戦のシーズンに向けてより一層頑張らないといけない。

 (世界選手権の代表内定については?)まだ自分でも信じられない。世界選手権には出られるけど、今までやってきたことや考えてきたことが別に変わるわけではない。引き続き強くなるために頑張るだけだ。五輪は小さい頃からの夢でもあったし好きな大会。それがだんだん自分の身近な存在になっていくことはとてもうれしい。よりクライミングで強くなることが自然と五輪への道に繋がると思っている。身近なことからコツコツ頑張っていきたい。(どんなところを強化していく?)今回感じたのは、動き系だったら対応がまだできるけど、純粋なパワーや引きの強さといった面ではボルダラーの人とまだ差があるので、そういったところをもっとやらないといけない」


緒方良行(3位)
「ボルダリングで1位を取れたのはすごく良かったがもっと稼げる場面でしっかり稼げなかったり、リードでももっと高い位置まで粘れたんじゃないかと思ったりで悔しさは残る。(リードで順位が下がってしまったが?)持久力など足りていないところは多いが一番の敗因は最後のムーブ選択での頭の柔軟性というか、土壇場の臨機応変さが足りなかった。ムーブは何となく思い描いてはいたが微妙な足の位置でできるかできないか分かれる場面だった。足を事前に置いておきたかったが『先に先に』という思いから雑な位置でムーブを起こそうとしてしまった。

 (緒方選手をはじめ楢崎智亜選手、藤井快選手という実績のある選手が今大会で五輪出場権の懸かる世界選手権代表の枠に入れなかった。若手の活躍についてはどう感じる?)ここ数年に限らず、この競技は割と男女関係なく若い子がどんどん育っていく。下の世代が育っていくのは素直にうれしいし、もちろんライバルにはなってくるけど、お互いに良い影響を与えながら成長できればと思う」


通谷律(4位)
「大会前にボルダーの調子が悪く不安はあったけどいい登りができて良かった。(BJCと今大会で決勝に残り自信も付いたと思うが?)少し自信は付いたけどまだまだ安定している気はしないので、W杯で経験を積んで反省点などを見つけていきたい。(去年の世界ユース優勝、今年のBJC、BLJCで決勝進出。どこが伸びてきていると感じる?)フィジカルや保持力を生かして登る面が多いので、そこが生きてきているのかなと感じる。悪いホールドを重心を落として効かせるのが苦手で、そういうのを練習していたら、自然と保持系も得意になり、それでだいぶ登れるようになってきた。(岩場も登る中で競技の魅力はどこに感じる?)観客を沸かせるという面で競技はものすごくいいと思う。完登した時にワーって沸いた時が1番うれしい。(同世代の安楽選手が優勝したがどういう存在?)宙斗が(この世代では)1番上だと思っていて、宙斗にずっとついていけばそのうち1番上に立てると思っている。一生追いかけたい」


藤井快(5位)
「実力不足だった。ボルダーは何とか食いつないでという感じだったが、リードは圧倒的に実力が足りなかった。ボルダーは2課題目がかなりハードというか、パワー系の振り切った感じだなと思っていたので、それ以外は絶対に登らなきゃというのはあって。回数はかかってしまったが登り切れたのは1つ手応えはあったし、リードはLJC(リードジャパンカップ)での悪いイメージが強かったので、そのあたりは払しょくできたかなと思う。五輪出場(の選考を兼ねる世界選手権への出場)が懸かった最後の試合かなと思っていた。今回で五輪(出場の可能性が)がなくなってしまったので残念だけど、しょうがないと思う」


吉田智音(6位)
「悔しいという実感しかないが、やはりボルダーの実力が大事だなと痛感した。今は週4回、ボルダーとリードを2回ずつトレーニングしている。それでもリードに注力している部分はあるので、これからはもう少しボルダーのほうにも力を入れていかないといけないかなと感じている。(この春から大学に進学したが?)摂南大学の国際学部に入った。自身も毎年世界を回っている中で、より国際的に関わっていけるように、より自分自身を昇華させられるように、何か自分の強みにできる部分をつかんでいきたい」


井上祐二(7位)
「得意のボルダリングでもう少し点数を取っておきたかったが、うまくは取れず、切り替えてリードも頑張ったが他の選手に比べるとやはりリードの練習が不足していた部分があり、この順位になってしまった。ボルダリングはW杯などでもパワー系(の課題)が増えてきている。普段から強化はしているがこういう大会に出るとより痛感するというか、もっと頑張らないといけないと感じる。リードはただただ、持久力のための練習量が足りていない。ボルダリングに集中してなかなかできない部分はあるが、頑張っていきたい。自分はボルダリングの日本代表に選ばれているので、W杯で活躍して、年間ランキング10位以内に入れば来年もW杯に出られる権利が与えられるので、今年はそこを目指していきたい」


小西桂(8位)
「ボルダーが想像以上にできなさ過ぎてショックだったがリードは自分なりに出し切れた。(この春に大学を卒業、大学院に進学するが今大会の経験をどう生かしたい?)大学院の2年間までで選手は辞めようと思っている。できる限り大会に出たくて、今回も決勝まで行きたいと思って頑張った。クライミングが研究テーマで、トップ層と戦えたことは今後の研究テーマ的にも、いろんなトップ層の選手の中でどのくらいレベルが分かれるかといったことを見られるので、彼らの近くにいられるのはこういう全国大会ならではの経験かなと思う。

 (残り2年間の選手生活の中で目標は?)本来であれば2020年のW杯に出られたがコロナですべてなくなってしまった。W杯は出たいという思いもあり、もう2年間選手を続けるという意味も込めて大学院に進学した。(今月の)八王子でのW杯には出られそうなので、当面の目標は八王子で成績を残すことと、その次は来年のBJCで代表に入りW杯にできるだけ参戦したい。(昨年に入院していたが?)一昨年に突発性のてんかんを発症してしまい、それもあって去年は大会直前に入院したこともあった。今でもたまに発作は起こるが、薬を飲んで抑えられていて、うまく向き合えていけたらという感じ。久しぶりにこういうジャパンカップで決勝に残れて、あのレベルの人たちと戦えたのは『戻ってきたな』という気持ちもあってうれしかった」

CREDITS

取材・文 編集部 / 写真 窪田亮

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