東京五輪開会式で日本国旗を運ぶベアラーの6人。スポーツクライミング界からユース五輪金メダリストの土肥圭太が参加した(手を挙げているのが土肥)

五輪開会式参加の土肥圭太がスポーツクライミング日本代表4人にエール 「何よりも自分らしい登りを」

 8月3日の競技初日が迫っている東京五輪の新競技「スポーツクライミング」。それに先立ち、開会式での“五輪参加”を果たしたのが2018年のユース五輪金メダリスト、土肥圭太だ。選手として東京五輪に参加することは叶わなかったが、日本国旗を運ぶベアラーとして重要な役割を担った。将来が期待される20歳に、開会式参加の感想や、競技の展望などを聞いた。
 
 
――開会式では日本国旗を運び、国旗掲揚につなぐという大役を務めました。

「最初に連絡をいただいた時は、自分には荷が重すぎてお断りしようと思ったんです。でも『スポーツクライミング』という競技名だけでも知ってもらえたらいいなという思いで、受けさせていただきました」

――ベアラーには五輪金メダリストの三宅義信さん、高橋尚子さんに加え、若手アスリートやエッセンシャルワーカーなど様々な世代、立場の6人が選ばれました。

「『次世代へつなぐ』というのが一つのテーマとしてあったみたいで、僕と冬季五輪競技であるカーリングのユース代表選手が参加しました。昔から見ていたオリンピックという舞台に少しでも関わることができて、本当に嬉しかったです」

――いよいよ東京五輪のスポーツクライミング競技が8月3日の男子予選から始まります。会場となる「青海アーバンスポーツパーク」に設置された競技壁を見て、どのような印象を持ちましたか?

「一番印象的だったのは、リード壁の垂直部分が短く、序盤から傾き始めていることです。高さもあって、おそらく15m以上はあるのではないでしょうか。負荷がかかりやすく高い持久力も問われるとなると、国際大会でリードに強い選手たちがより有利になるのかなと思います」

青海アーバンスポーツパークの競技会場(2020年3月のテストイベント時)。手前からスピード壁、ボルダリング壁、リード壁。

――ボルダリング壁に関してはいかがでしょうか?

「強傾斜の壁は右側だけで、思っていたよりも全体的に傾斜が緩く感じました。中央部分は凹角になっていて、ボリューム(大きなホールド)に入り込んだり、ホールドを押しながら登るような動きが増えてくると予想します。左側はスラブ(緩傾斜)なので、バランス力が求められるはず。予選は特徴の出しやすい右側の強傾斜と左側の緩傾斜に作られた課題を登れるかどうかがカギになりそうです」

――壁全体の幅が短いので、4課題ある予選では横に大きく動くような課題が出る可能性は低そうですよね。

「そう思います。一方で課題数が3つに減る決勝になると横に広く使えるようになるので、たとえば左側の緩傾斜では思い切り長く走らせるような課題が登場するかもしれません」

――世界共通規格の壁とホールド配置のスピードで気になる点を挙げるとすると、使用されることが想定される新品のホールドが選手に与える影響くらいでしょうか。

「新品の場合はフリクションが良すぎるので指皮が削られる心配がありますが、今大会はいつもと違い予選と決勝で1日空くので、影響は少ないはずです。またルートセッターが競技前にある程度チョークをつけると思うので、問題はないのかなと。気になったのが、途中にある黒いホールドです(普段は赤いホールドで統一されていることが多い)。荷重された時のタイムを計測できるシステムが導入されていると聞いたことがあるので、もしかすると中継画面にパートごとのタイム表示がされるかもしれません。そうなると前半に速い選手、後半に速い選手などがわかり、観戦が盛り上がりそうですよね」

――日本勢の展望についても聞かせてください。

「男子の楢崎(智亜)選手は頭一つ抜けているので、1種目でミスがあっても決勝には残ってくると思います。仮にスピードでフライングした(その時点で最下位になる)としても、残り2種目で挽回する実力を持っているので」

――同じ選手から見ても、やはり楢崎選手は総合力で抜きん出ていると。

「うまくことが運べば、全種目1位で優勝というのもあり得ない話ではありません」

――もう1人の男子日本代表・原田海選手にも世界選手権のボルダリング種目で優勝した実績があります。

「原田選手は緩傾斜課題の当たり外れが大きいところがあるので、そこがキーポイントになると思います。ただ、ここぞという場面できちんと結果を出してくるというか、『ここは勝たなければいけない』という、いわゆる勝負所をわかっているので、そこに期待しています」

――女子には野口啓代選手、野中生萌選手が出場します。

「さすがに2人のどちらかが予選落ちしたらびっくりしますね(笑)。それくらい実力が安定しているので、決勝には必ず残ってくると思います」

――女子は金メダル候補筆頭で、ボルダリング、リードの2種目で圧倒的な力を持つヤンヤ・ガンブレット選手(スロベニア)が最大のライバルとして立ちはだかります。

「スピードではタイム的に野中選手のほうがヤンヤよりもだいぶ速いと思っていましたが、彼女のSNSでの投稿や今年6月のW杯で7秒台(7.96秒)を出したことを考えると、野中選手の自己ベスト(7.88秒)とあまり変わらなくなってきました。ただ、野中選手は5月にW杯で日本人初のメダルを獲得していますし、トーナメントでの勝負強さがあります。野口選手も含め、いかにスピードでヤンヤを抑えられるかが大事になってくるのではないでしょうか」

――その野口選手は、今大会での競技引退を表明しています。

「もちろん同じ男子選手の2人や、一緒にトレーニングする機会の多い野中選手にも頑張ってほしいんですけど、野口選手は小学生の時から見ていたので、1番頑張ってほしいなと思っています。ずっと日本を競技の最前線で支え続けてきた選手なので、最後というのが今でも信じられないくらい悲しいです。まだまだ5年くらいは活躍できそうなのに…」

――最後に、日本代表4人へのエールをお願いします。

「実力を出し切れれば、みんな表彰台を狙えるレベルということは知り尽くしているので、自分の強みを発揮して、何よりも自分らしい登りを見せてほしいです。応援しています」
 
 

土肥圭太(どひ・けいた)

2000年10月17日、神奈川県生まれ。冷静沈着さを持ち味とし、ボルダリングを主戦場とする。世界ユース選手権2016ボルダリング、ユース五輪2018の複合を制すなどユース時代から将来を期待されると、シニア国際大会2年目の19年にW杯第4戦で4位入賞。同年の世界選手権代表にも選出された。20年には国内シニア大会初制覇をスピードで飾っている。高い洞察力と的確なコメントによる大会解説も好評。(写真:窪田亮)

CREDITS

取材・文 編集部 / 写真 森田直樹/アフロスポーツ

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