世界新へ高まる期待。女子は6秒台突入か/IFSCクライミング世界選手権2019八王子 大会プレビュー【スピード編】
東京・八王子で11日(日)に開幕するIFSCクライミング世界選手権。実施4種目の見どころをそれぞれ紹介していく連載第3弾は、スピード。競技はリード決勝から1日空けて、17日(土)に予選と決勝を行う。
競技は非常に明快。「相手より速く」
スピードは15mの壁にあらかじめホールドの配置が決められたコースをどれだけ速く登れるかを競う。タイムトライアル式の予選は2度競技をし、より速いタイムが順位に適用され上位16人が決勝に進む。決勝はトーナメント式で行われ、先にゴールタイマーをタッチした方が勝ち抜けるため非常に明快。コースが世界共通のため、スポーツクライミング3種目の中で唯一世界記録がある。
ボルダリングやリードが指の力、持久力、繊細な動き等を求められるのに対して、スピードで重要なのは大きな筋肉を使った瞬発力だ。そして何よりも規定のコースを登りこんで身体の動きをどれだけ洗練させてきたかが問われる。また、トップレベルの選手でもフォルススタートと呼ばれるいわゆるフライングや、スリップ、ゴールタイマーの押しそびれなどのミスがあり得るため、番狂わせが起きることもしばしば。
女子未踏の6秒台に迫るソン・イーリン
女子は今シーズンに入りソン・イーリン(中国)がスピードのスペシャリストとしての才能を完全に開花させ、これまでのワールドカップ(W杯)全5戦に出て優勝3度、準優勝1度と手が付けられない状態。今年4月の中国・重慶大会では7.101秒とそれまでの世界記録を0.2秒以上縮める世界新を叩き出した。
ソンを追うのは昨シーズンのW杯年間優勝者で前世界記録保持者のアヌーク・ジョベール(フランス)と前回大会優勝者のアレクサンドラ・ミロスラフ(ポーランド)。ちなみにミロスラフは旧姓ルジンスカで、今年結婚して苗字が変わっている。
ベテランがランキング首位でけん引する、実力拮抗の男子
男子は上位層の実力が拮抗しており、大会ごとにしのぎを削って順位が入れ替わる状況。現在W杯ランキング首位は34歳のベテラン、バッサ・マウェム(フランス)であり、前回大会準優勝で今シーズンも優勝と準優勝を1度ずつ経験。2017年のボルダリングW杯八王子大会でファイナリストとなり日本でも有名なミカエル・マウェム(フランス)の兄である。
ランキング2位はウラジスラフ・デューリン(ロシア)で、今シーズン優勝こそないものの安定した成績を残す。ロシア勢は同ランキング上位10人に4人がランクインするなど、スピード王国としての力を相変わらず示している。
注目選手[女子]
女子はソンとミロスラフの一騎打ちと見ていいだろう。この2選手は安定して7秒台前半のタイムを出すことができるため、地力で他の選手を凌駕している。ソンは「トモアスキップ」と呼ばれる、1つ目のハンドホールドに手をかけた直後に左足も乗せ、いきなり3つ目のハンドホールドを取りに行く登り方で世界新を計測したため、そのムーブにも注目したい。この技はその名の通り楢崎智亜が編み出したとされ、今では多くの海外選手が取り入れているようだ。
対するミロスラフは豊富な経験と勝負強さでソンを迎え撃つ。前回大会優勝に加えて、今シーズンのW杯は2大会のみの参戦ながら優勝と準優勝。出場した大会では常に上位に位置付ける。
日本人では野中生萌がどこまで世界のスピードスター達に食らい付けるかが楽しみだ。野中は8.432秒の国内記録を持ち、W杯ヴィラール戦では日本人で初めて決勝トーナメントに進み10位に入る快挙を成し遂げた。
注目選手[男子]
男子は実力が伯仲する決勝トーナメントに入ると5秒台連発の接戦が予想され、わずかなミスが命取りになるだろう。バッサが注目選手であることは間違いないが、やはり前回大会優勝かつ5.480秒の世界記録を持つレザー・アリプアシェナ(イラン)は恐ろしい存在だ。今シーズンはあと一歩勝ち切れていないが、大舞台にきっと照準を合わせてくるだろう。その獣のような闘志と生命力溢れる登りは必見。選手のレベルは年々上がっているため、2年以上ぶりの世界新記録更新にも期待が高まる。
日本人も楢崎智亜の国内記録6.291秒を筆頭に6秒台をマークする選手が増えるなどスピードの力は確実に伸びている。決勝トーナメントに進出する選手が現れるのか注目したい。
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CREDITS
文 植田幹也 / 写真 IFSC/Eddie Fowke