FEATURE 138

[特別座談会]原田海×野澤武史×住友商事社員

スポーツとビジネスに効く「セルフプロデュース」のすすめ


近年、自分の個性や強みを分析し、その魅力を発揮していく手法として注目が集まっている「セルフプロデュース」。実は、一人で壁に向き合い高みを目指すスポーツクライミングはその特性上、セルフプロデュースとの親和性が非常に高い競技だという。そこで今回は競技を支援する住友商事の協力の下、スポーツクライミング日本代表の原田海選手、元ラグビー日本代表かつ企業経営者でスポーツ、ビジネス双方に精通する野澤武史氏、住友商事社員の友田成美さんの三者による、セルフプロデュースをテーマとした座談会の模様をお届けする。

※本記事の内容は2021年12月発行『CLIMBERS #022』掲載当時のものです
 
 

 
原田海(はらだ・かい)
1999年3月10日生まれ、大阪府出身。2018年の世界選手権ボルダリングでシニア大会初タイトルを飾り、21年夏の東京五輪に出場するなど国内随一の才能を持つ。“自分に打ち克つ”ことを信条とし、自らの感覚と物差しを信じて進むなどセルフプロデュースを日々実践している。
 

(写真:鈴木奈保子)

 
野澤武史(のざわ・たけし)
1979年4月24日生まれ、東京都出身。グロービス経営大学院卒(MBA取得)。慶応義塾大学ラグビー部で2年次に日本一、神戸製鋼コベルコスティーラーズにて現役引退後、日本ラグビーフットボール協会でユース世代の強化を担当。山川出版社代表取締役社長、一般社団法人「スポーツを止めるな」代表理事。
 

(写真:鈴木奈保子)

 
友田成美(ともだ・なるみ)
2018年4月に住友商事入社。エネルギー資源の輸入に携わり、海外のサプライヤーと国内事業者を繋ぐビジネスを担当。大学の4年間はアルティメットに打ち込み、U23日本代表として世界大会にも出場した。
 
 

どのように強みを発揮するのか
「弱さを受け入れる」こともポイント

本日はよろしくお願いいたします。まずはみなさんの「セルフプロデュース」にまつわる経験から教えてください。
野澤 ラグビーの解説をしていた時、周りにトップ選手上がりの方がいなかったので「王道解説」とは違う「マニアック解説」で自分の居場所を作っていました。他にはない役割で自分の価値を高めると言いますか。
 
原田 高校生の時から、海外遠征に行くにも自分で手配するのが当たり前という中で活動してきました。自分はコーチを付けず、練習メニューや頻度、摂取する栄養についても自ら考えているので、セルフプロデュースはかなり重要だと捉えています。トレーナーや栄養士の方に付いていただいていた時期もありますが、自分でやるほうが達成感を感じられるんです。
 
友田 私は「自分がこの会社にどう貢献できるか」を考え自分の長所を言葉にして伝えた就職活動が、今までで一番のセルフプロデュースだったと思います。
 
野澤 日本人は決められたことをやるのは得意ですけど、自分で決めていくのはあまり得意じゃない。原田さんのスタイルに憧れ、共感する人は多いのではないでしょうか。

それぞれの競技における「セルフプロデュース」をどう考えていますか?
野澤 以前にラグビーのユース選手のワークショップで「自分が6人目のメンバーとしてSMAPに加入するならどういうキャラクターか?」というテーマが扱われました。司会枠には中居くん、イケメン枠にはキムタクなどそれぞれが得意分野を持っている中で、自分の強みをどう発揮していくのか、もしくは他人ができないことでどうチームに貢献していくのか。敵味方合わせて30人がフィールドにいる15人制ラグビーでは、このように自分をプロデュースする「生き残り戦略」が重要になりますね。
 
原田 ボルダリングは選手によって課題の得意不得意があるんですけど、僕は得意分野を伸ばすことを意識しています。他の選手が苦戦している課題を自分だけ登り切れるのは大きな強みになるので。
 
友田 私は学生時代アルティメットに打ち込んでいました。アルティメットは歴史が浅くマイナーで監督やコーチもいなかったので、チームの強みをどう引き上げていけば勝てるのかを日々考えなければいけない競技でした。
 

(写真:鈴木奈保子)

プレッシャーとの付き合い方も自分をプロデュースしていく上でのポイントになると思います。日本を代表して戦った実績のあるみなさんはどのように重圧と向き合っていたのでしょうか?
原田 目指す大会までの練習や普段の過ごし方を完璧にして、いっさい不安が残らないようにすることでプレッシャーに対応してきました。ですが、ケガで思うように調整できない日々が続いた夏のビッグイベント前には、周りの信頼できる人たちに弱音を吐くことで対処しようとしていましたね。
 
野澤 周囲に相談しようと思ったきっかけは何だったんですか?
 
原田 それまでは自分1人でやってきたという自信があったんです。でも調子が悪くなった時に考える時間が多くなって、そこで気づけたというか。他の選手に「どんな練習してる?」と聞いて吸収したり、YouTubeでトレーニング動画を見て取り入れたり。自分だけでやってきたつもりが、そうではなかったんだなと。
 
野澤 とてもいい気付きですね。自分も21歳という若さで日本代表に選出されたという成功体験に引っ張られて、「昔はできたのにどうして今はできないのか」というプレッシャーを自分で自分にかけてしまっていたことがあります。そこで「僕はこういう人間なんだ」とできない自分を受け入れたことで余計なプレッシャーから解放されたように思います。
 
友田 私も自分が描く「かっこいい自分像」に苦しめられた時がありました。国際大会は国内では感じることのない緊張感があり、いつもの動きができないんですよね。アルティメットはフリスビーを投げてチームで繋いで前に進み得点を取るスポーツで、どんな時でも仲間がいないと成り立ちません。だからこそそういう時は仲間の顔を見てプレッシャーを和らげていました。
 

セルフプロデュースの第一歩は
「自分をよく知り、自分らしくいること」

 
ビジネスシーンでのセルフプロデュースについても伺います。友田さんはビジネスの現場で海外の方とよくコミュニケーションを取っていると思います。日本人はセルフプロデュースが下手、シャイで自分のことをアピールしないとよく言われますが、心がけていることはありますか?
友田 社内も社外も、国内も海外もコミュニケーションを取るという根本的な部分は変わらないと考えています。例えば身の上話をしたり、日本の紅葉の写真を見せたり。面談前にそういうアクションを取り入れることで距離の縮まり方が違うんですよね。ここで1つ、私からお2人に伺いたいのですが、知名度が非常に低いアルティメットの人気向上を任されたとしたらどんなことを考えるでしょうか?
 
野澤 大事なのは、人気が高まるきっかけを逃さないことでしょうか。ラグビーは2019年のW杯で一気に躍進しましたけど、それまでは暗黒の時代が続きました。例えば、男子ゴルフが石川遼選手の登場で一気に沸きましたよね。タイミングが来た時に輝く人材をどう世に出していくのか。そこじゃないかと思うんですよね。
 
原田 単純なんですけど、僕は競技をしている選手自身が楽しそうにしていること、かっこいい姿を見せていくことが大事だと思っています。そういった登りをメディアや自分のSNSを通じて発信していけるよう意識しています。
 
友田 ありがとうございます。「自分の弱みを認める」など、スポーツの分野でお話いただいたことは今後の仕事にも生かしていけそうです。
 
野澤 自分は自分であって、他人の真似は無理なのかなと。「自分をよく知り、自分らしくいる」というのが、スポーツにおいてもビジネスにおいてもセルフプロデュースの第一歩なのかなと思いますね。

CREDITS

取材・文 編集部 / 写真 窪田亮 / 協力 住友商事

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