FEATURE 137

“速さの日本一決定戦”で頂点を狙う

第4回スピードジャパンカップ注目選手紹介


2月に行われたボルダリングジャパンカップ、リードジャパンカップに続き、3月6日には京都府亀岡市で「第4回スピードジャパンカップ」(以下SJC)が開催される。本記事ではミニインタビューを通して有力選手4人を紹介。壁を駆けるスピードクライマーたちに要注目だ。

※本記事は2022年3月6日開催の「第4回スピードジャパンカップ」大会公式プログラムの掲載コンテンツに未収録分を追加、再構成したものです。
 
関連記事:[特別対談:楢崎智亜×竹田創]スピード日本勢の課題と可能性
 

安川潤(やすかわ・じゅん)

日本男子初のW杯決勝に進出した優勝候補

 
[生年月日]
 2003年10月18日(18歳 / 高校3年)
[所属]
 千葉県山岳・スポーツクライミング協会
[クライミング歴と始めたきっかけ]
 11年 / 幼少期から大好きだったテレビ番組『SASUKE』に出るためのトレーニングの一環としてジムに行ったこと
[スピードクライミング歴と始めたきっかけ]
 4年 / 世界ユース選手権の日本代表選考基準にスピードの成績が加わったこと
[自己ベスト]
 6.18秒(2021年5月:W杯ソルトレイクシティ大会)
 
2月のボルダリングジャパンカップでは24位。スピード以外の種目でも大会に出場されていますが、現在はどういった割合で3種目に取り組んでいるのでしょうか?
昔はリードもしていましたが、ケガなどもあり高校生になるタイミングでボルダリングとスピードに絞りました。普段は五分五分の割合で練習していて、直近にある大会に応じてその種目の練習量を増やしています。

スピードに楽しさを感じるのはどんな時ですか?
最初はどんどんタイムが伸びていくことに楽しさを感じていましたが、今は繊細なところまでこだわって研究することが楽しいです。足の置き方やどのムーブを取るかなどによって、大きくタイムが変わってくるんです。

練習で自己ベストより速いタイムは出ていますか?
安定して6.01秒くらいを出せるようになっています。でも5秒台にはまだ届いていないんですよね。

普段はどのように練習を? 誰かに指導を受けているのでしょうか?
基本的には自分1人で練習しています。スピードのホームジムは葛飾区東金町運動場スポーツクライミングセンターで、家族に動画を撮ってもらうなど協力してもらい海外選手の動きと見比べています。登る以外では全身のフィジカルトレーニングや短距離走、ラダーを使ったトレーニングをしています。

2021年5月のW杯ソルトレイクシティ大会では日本男子で初めて決勝トーナメントに進出し、6位入賞の快挙となりました。
自分の実力以上の結果で出来過ぎだと思うくらいでした。中国やロシアといった強豪国の選手がエントリーしていなかったので、自己ベストに近いタイムを出せればもしかしたら決勝に残れるかもと期待していました。

大会になるといつも以上に力が出るものですか?
というよりは、緊張する中でも自分の100%の力を発揮できる安定感に自信を持っています。

ソルトレイクシティ大会ではインドネシア勢が世界記録を2回更新しました。刺激を受けたのでは?
うまく言葉にするのは難しいんですが、その瞬間を生で観たことによって自分の中のスピードに対するイメージが変わりました。実際に帰国後の練習では自己新のタイムを残せましたし。
 
関連記事:スピードクライミングの世界記録と日本記録

今年は自身にとってユース最終年となります。SJC、最後の出場となる(SJCと同日開催の)第2回スピードユース日本選手権(以下SYC)に向けた意気込みと、将来の目標を教えてください。
SJCの優勝争いは5秒台に突入すると思っています。タイミングが合えば自分にもその実力はあると思っているので、5秒台を出した上でSJCとSYCの2冠を達成したいです。将来的にはスピードW杯の優勝と五輪に出場することが目標です。
 
 

大政涼(おおまさ・りょう)

リードメインも大会自己ベスト5秒台に迫る逸材

 
[生年月日]
 2002年6月26日(19歳 / 大学1年)
[所属]
 松山大学
[クライミング歴と始めたきっかけ]
 8年 / 小学5年生の時に自宅近くのクライミングジムに家族で訪れたこと
[スピードクライミング歴と始めたきっかけ]
 3年 / 地元の西条にスピード壁ができたこと
[自己ベスト]
 6.06秒(2020年11月:ジャパンツアー)
 
先日のボルダリングとリードのジャパンカップにも出場されていましたが、現在取り組んでいる3種目の割合を教えてください。
リードがメインで、SJCなどスピードの大会が近づいてきたらその種目を集中的にする感じです。普段はリード8割、ボルダリング1割、スピード1割くらいですね。

リードメインで自己ベスト6.06秒は速いですよね。練習ではさらにタイムを縮めているのでしょうか?
昨年10月に5.81秒を計測しました。それほど本格的に取り組んでいるわけではないのですが、なぜかタイムを残せているんです。

壁を登る以外で、スピードを意識したトレーニングをしていたりするのでしょうか?
週に1回フィジカルトレーニングはしていて、スピードの大会が近づくとそれに合わせたトレーニングに切り替えています。

スピードは誰かに教えてもらっているのでしょうか?
おそらく愛媛でスピードに取り組んだのは僕が初めてということもあって、ずっと1人で練習していました(笑)。いつも他の選手が登る動画を参考にしています。1番よく観るのは(5.72秒の日本記録を持つ)楢崎智亜選手。「トモアスキップ → マルチンスキップ → サブリ・サブリ」とムーブの構成が僕と一緒なんです。海外勢では(世界記録保持者でインドネシア出身の)ベドリック・レオナルド選手で、他にも日本人に似た体型だったり、身長が僕と同じだったりする選手を見つけて比較することが多いですね。
 
関連記事:楢崎智亜 狙うは日本新、ワクワク感が楽しい(トモアスキップ、マルチンスキップ、サブリ・サブリのムーブ解説)

昨年のSYCはジュニア3位、SJCは11位でした。
ちょうどムーブを変えようとしていた時期で、大会に間に合わず動きがごちゃごちゃした感じになってしまいました。その後にマルチンスキップとサブリ・サブリを取り入れたことで、練習では5秒台を計測できるようになっています。

自信のあるパートは?
最初から加速していくのが得意です。トモアスキップからちょうど壁の半分くらいまでですね。課題としているのが中間の10手目で、そこで動きが少し止まってしまうというか。脳内で「前半」と「後半」に分けて考えてしまう癖があって、その意識をなくしたい。そこを改善できれば日本記録更新も可能だと思っています。

今回のSJC、および今後の目標を教えてください。
SJCまでの練習日数が限られているのでそこでの日本記録更新は難しいと思いますが、5秒台は出したいです。6秒台前半から5秒台を出せればいい戦いができると思うので、優勝も狙って頑張りたいです。今後も今のままリードをメインに3種目とも取り組んでいこうと考えていて、スピードでは1度でいいから日本記録を保持してみたいですね。リード、ボルダリングでは選手層の厚い日本で、ジャパンカップ決勝に安定して残れるような選手になりたいです。
 
 

河上史佳(かわかみ・ふみか)

世界ユース5位入賞のユースB女子日本記録保持者

 
[生年月日]
 2006年6月9日(15歳 / 中学3年)
[所属]
 鳥取県山岳・スポーツクライミング協会
[クライミング歴と始めたきっかけ]
 10年 / クライミングをしていた兄の影響で
[スピードクライミング歴と始めたきっかけ]
 2年 / JMSCAのアスリートパスウェイ事業に参加して
[自己ベスト]
 9.09秒(2021年8月:世界ユース選手権)
 
関連記事:スピードクライミングは新たなステージへ タレント発掘・育成が進む日本のスピード界(JMSCAによるアスリートパスウェイ事業)

現在取り組んでいる3種目の割合はどういったバランスですか?
スピードが8割、ボルダリングが2割です。

自己ベストはユースB女子日本記録の9.09秒です。練習ではこれより速く登れているのでしょうか?
これより速く登れたことはありません。(大会になると集中できて速くなる?)そうですね。大会と練習では身体が違うんじゃないかと思うくらいです(笑)。練習拠点の倉吉スポーツクライミングセンターまで自宅から1時間くらいかかり、さらに今年度は高校受験もあったので、そもそも練習する時間があまり取れていませんでした。

最近の練習頻度は?
登るのは土日だけですが、学校では陸上部に所属しているので平日の放課後は短距離走の走り込みで下半身の筋力を強化し、それをスピードにも生かしています。

スピードは誰かに教えてもらっているのでしょうか?
鳥取県山岳・スポーツクライミング協会のコーチや、JMSCAの方に鳥取に来てもらった際に教えてもらっています。あとは女子選手の映像を観たり、友達同士で動画を撮って一緒に観たりしています。(同じく注目選手としてこのあと紹介する同県出身の)林かりん選手とはよく一緒に練習していて、「鳥取県勢としてお互いパリ五輪に出られたらいいね」と話しています。

スピードで楽しさを感じるのはどんな時でしょうか?
やっぱりタイムが縮まった時や、難しいムーブがうまく決まった時です。スピードを始めた当初は本当にゆっくりした動きしかできず、50秒台だったと思います。

自分の登りの特徴は?
最も力を入れて練習しているのがスタートダッシュなので、スタートでできるだけ差をつけられるよう引き続き練習を頑張りたいです。

2021年8月の世界ユース選手権(ロシア・ヴォロネジ)ではユースBで5位入賞を果たしました。
初めての世界大会で緊張し過ぎて、緊張しているのかいないのかすら自分ではよくわからなかったんですけど(笑)、その時の自分ができる最大限の成果が出せたと思っています。同じユースB女子の海外選手は(序盤のホールドを使わずにショートカットする)「トモアスキップ」を取り入れている選手が少なくて、それでも(トモアスキップを使っている)私とほとんど同じようなタイムが出ていたので、後半パートも強化しなければいけないことを実感しました。

初めての出場となる今回のSJC、そして将来の目標を教えてください。
国内で大きな大会に出場するのはこのSJCが初めてになります。まずは8秒台を出したいですし、パリ五輪強化選手に選ばれる基準タイム(8.8秒)を切ることも目標です。将来はパリ五輪に出場できるよう頑張ります。
 
 

林かりん(はやし・かりん)

前回SJCで野口、野中、倉に次ぐ4位と躍進

 
[生年月日]
 2005年3月20日(16歳 / 高校2年)
[所属]
 鳥取県山岳・スポーツクライミング協会
[クライミング歴と始めたきっかけ]
 5年 / 父親がクライミングをしていて家族でジムに行ったこと
[スピードクライミング歴と始めたきっかけ]
 2年 / JMSCAのアスリートパスウェイ事業に参加して
[自己ベスト]
 8.70秒(2021年12月:ジャパンツアー)
 
現在取り組んでいる3種目の割合を教えてください。
スピードとボルダリングがおよそ半々で、リードは時々するくらいです。

スピードの練習頻度は?
週に3、4回はしています。ただ、普段練習している倉吉スポーツクライミングセンターは壁が屋外にあり天候に左右されてしまうので、雪の多かったこの冬はあまり登れませんでした。夏の時期の土日はほとんどしていて、平日も学校終わりに30分から1時間ほど練習していました。いつもは鳥取県山岳・スポーツクライミング協会のコーチに教えてもらったり、(関東在住でスピード専門選手の)池田雄大選手に月に数回オンラインで指導してもらったりしています。

練習などで自己ベストより速いタイムは出ていますか?
8.62秒まで縮めることができています。

壁以外でのトレーニングにも取り組んでいますか?
私は蹴る力が弱いので、脚力を鍛えるトレーニングをしています。それ以外はスピードやボルダリングでひたすら登っていて、懸垂やダンベルなどを用いたトレーニングはしていません。

スピードで楽しさを感じるのはどんな時でしょうか?
ボルダリングと違ってタイムが出ることですね。最初は30秒弱くらいだったんですけど、そこからタイムを縮めていくのがとても楽しかったです。スピードに取り組んでいる県内や他県の選手と集まって、練習や合宿をする時も楽しいですね。

自分の得意なパートは?
スタートダッシュから(中間付近にある10、11番ホールドの)ランジまでです。

昨年のSJCは4位。準決勝では野中生萌選手と対戦しました。
自分にとって初めての大きな大会で、まさか決勝トーナメントに進めるとは思っていませんでした。ずっと見てきた野中選手との対戦は迫力があり、緊張しまくりで(笑)、自分の動きが全然できませんでしたね。

今回のSYCとSJC、そして将来の目標を教えてください。
どちらも優勝したい気持ちが大きいんですけど、前回も「SYCで優勝したい」と思っていたら決勝でミスして2位に終わった悔しさがあるので、勝ちにこだわる以前に今の自分にできる登りをしたいと思っています。昨年はスピードの日本代表に選ばれましたが、コロナの影響で国際大会にまったく出られませんでした。今年はジャパンカップで優勝してもう一度日本代表となり、国際大会で活躍して2024年のパリ五輪に出たいです。
 
「第4回スピードジャパンカップ」大会特設サイト

CREDITS

取材・文 編集部 / 写真 窪田亮 / 協力 JMSCA

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