FEATURE 79

LJC2020 注目選手インタビュー

清水裕登 日本男子5人目のリードW杯王者

もう一度、国内で自分の力を証明したい

新型コロナウイルス感染拡大防止措置による2度の延期を経て、2020年8月9日〜11日に岩手県盛岡市で開催される第33回リードジャパンカップ(LJC)。男子注目の一人に挙げられるのが、2019年にLJCで3位、W杯印西大会で優勝と見事にブレイクした清水裕登だ。楢崎智亜らと同世代の24歳が、虎視眈々と日本一の座を狙う。

※本記事は「第33回リードジャパンカップ」大会公式プログラムの掲載内容から一部抜粋、再構成したものです。
 
 

クライミングに対する姿勢、メンタルの変化がもたらした2019年の飛躍

 

2019年は飛躍の年だったと思います。LJCは3位という成績でしたが、あらためて振り返ると?

「もちろん優勝を目指していましたが、自分の中で弱点というか、そういうものがまだ克服できないまま本番を迎えて、そのダメな部分が出てしまった大会でした。優勝を狙える位置にいると自分では感じていたので、悔しい思いが強かったですね」

ダメな部分というのは?

「テンポよく登ることができていませんでした。決勝ではそれで時間が足りなくなり、十分なレストも取れずに最終局面に入ってしまって落ちてしまいました」

 

その4カ月後のW杯ブリアンソン大会(フランス)では準優勝を果たします。日本人が表彰台を独占する異例の大会でした。

「ここでも優勝を狙っていましたが、W杯ということでうまくいかないことも多いので、決勝に残れれば表彰台に乗りたいという気持ちで大会に臨みました。壁や課題との相性が良く、結果的には準優勝で、優勝もできたなと思いましたね。この時もやっぱり悔しかったです」

その悔しさが10月の印西大会(千葉)に繋がったわけですね。

「ブリアンソンで自分の現在地を測れたと思います。それを踏まえて印西で優勝することを目標に準備し、その上で目標を達成できたというのは自分の中で大きかったですね。決勝の競技終了後は他の選手たちの登りを見て待っている立場だったので、あまり実感はなかったんですけど(笑)」

ブリアンソン大会前の5月からは、「大阪ハイテクノロジー専門学校」によるフィジカルサポートを受けるようになったと聞いています。

「僕は少しフィジカル面が弱かったので、いつも見ていただいているトレーナーの方から紹介してもらい、通うようになりました。食事法や筋肉の作り方など、クライミングでのトレーニングに耐えられる体づくりのサポートをしていただいています」

その取り組みも好調の一因でしょうか?

「そうですね。でも一番大きいのは、クライミングに対する姿勢やメンタル的な部分が、10代や20代序盤の頃よりも成長できたことだと思います」

どのように変わったのですか?

「以前の僕はクライミングのことをなめていたんだと思います。ユースの頃は練習量が少ないにもかかわらず、それでも結果が出る時があって、その感覚のままクライミングをしていました。20歳を超えたあたりから、先ほど話したトレーナーさんに見ていただくようになったのですが、その方はいつも僕に向き合ってくださって、アドバイスをくれたり、指の怪我でモチベーションを下げていた時も親身になって話を聞いてくれました。そうするうちに、自然とクライミングに向き合えるようになれたんです。同時に日本代表として活動する機会も増えて、“クライマーとしての自覚”も出てきました」
 
「怪我で思うように登れなくなってから、あらためてクライミングが好きなんだと実感したし、登れることが嬉しいんだと感じましたね。クライミングと向き合っていくうちに、勝ちたいという思いが芽生え、勝ちを狙って練習できるようになったところも変化したと思います。リードの練習量で言えば、1日に5本のルートを登っていたのが、多い日は25本登るなど大きく変わりました。今はもう怖いので、クライミングになめてかかることは絶対できません(笑)」

フィジカルサポートを受けるようになったのも、よりクライミングと向き合えるようになったという意識の変化の表れなんですね。

「はい。トレーナーさんをはじめ、そばにいてくれる人たちの支えはかなり大きいですし、感謝しています」

 

ブリアンソン大会から3カ月後の印西大会で待望のW杯初優勝。自信を深める2大会連続の表彰台だった。

 
 

「僕もリードでポジションを確立したい」
自粛期間中はYouTubeに動画投稿も

清水選手の同世代には楢崎智亜選手などがいますが、彼らの活躍は刺激になっていますか?

「やっぱり純粋に凄いなと思いますよね。楢崎選手はW杯で何度も優勝していて、ユースの時から強かったですから。僕もリードで彼のようなポジションを確立できたらなと思います」

仲間の活躍で言えば、関西出身者で結成した「KSSK」(「関西最高」の略)のメンバーである原田海選手、井上祐二選手が今年のBJC(ボルダリングジャパンカップ)で優勝、3位と活躍されました。

「『KSSK』はノリで結成したところもあって、特にこれといった活動をしているわけではないんですけど(笑)、でも海や佑二の活躍は相当刺激になりますね。僕もリードで結果を残していきたいです」

リードの魅力はどんなところにありますか?

「ボルダリングと違って、一回落ちたら終わりという部分が僕にとっては大きな魅力ですね。その方が僕の性格的に集中できます。1トライしかできない中で、自分の持つ最大限の力をいかに出し切れるか。最終面まで進んで、出し切っている選手を見ると、かっこいいなって思います」

 

清水選手はコロナ禍での自粛期間中に“YouTuber”としても活動されていました。

「まだ知名度も低い自分の活動やリードのことを知ってほしいという気持ちがありましたし、みなさんが登れる状況にない中で何か提供できたらいいなって。自宅でトレーニングしたり、他のクライマーとコラボレーションしてみたり」

動画の編集も清水さん自身で?

「はい。自己流で勉強しました。でもめちゃくちゃ大変で(笑)。テロップ入れたり、音を入れたり、相当時間がかかりましたね」

 
 

LJCは「今一番優勝したい大会」。“シミヒロスタイル”にも注目を!

LJCは新型コロナウイルス感染症の影響で2度延期され、8月盛岡開催となりました。

「やっぱりショックでしたね。(当初予定だった3月の)LJCに向けて調子が上がっていて、表彰台も狙えると感じていました。それが2回延期となり、また大阪でホームにしていたクライミングジムも新型コロナウイルスの影響で閉店してしまって、メンタル的にしんどかったです。でも自粛期間中は苦しかった分、普段登れていたありがたさを再認識できました」

清水選手のクライミングのスタイルを教えてください。

「“智亜スタイル”のように、自分にも“シミヒロスタイル”ができたらいいですね。僕はけっこう時間をゆったり使って登るタイプで、そういう手堅い登りを目指しています。『なんかあいつずっと登ってる』みたいな(笑)。楢崎選手とは真逆なスタイルですよね。しんどいパートに入る前に、レストを挟んでから突っ込んでいく。そういうスタイルの違いなんかも見てもらえたら嬉しいです」

最後に、今大会に向けた抱負を聞かせてください。

「今一番優勝したい大会です。まだLJCは勝ったことがなく、先にW杯で優勝できました。だから今大会で優勝してもう一度、国内で自分の力を証明したいと思います」

 

 
第33回リードジャパンカップ 特設サイト

CREDITS

インタビュー・文 篠幸彦&編集部 / 写真 窪田亮 / 協力 JMSCA

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PROFILE

清水裕登 (しみず・ひろと)

1996年1月6日、大阪府生まれ。愛媛県山岳・スポーツクライミング連盟所属。若くしてリードで才能を発揮し、2014年にW杯初出場。昨年はLJCで3位に入ると、W杯ブリアンソン大会で2位、印西大会で日本男子5人目の優勝に輝いた。

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