FEATURE 69

裏方プロフェッショナル #013

佐原晴人(JMSCA スポーツクライミング部 技術委員会 常任委員)

ビレイヤーのスタンダードを作りたい

これが私のクライミング道。舞台裏で“壁”と向き合うプロに迫ったインタビュー連載。第13回は、リードクライミングにおけるクライマーのパートナー、「ビレイヤー」の講師として全国でその技術を伝える佐原氏に、現在の活動やビレイの難しさについて伺った。

※本記事の内容は2019年12月発行『CLIMBERS #014』掲載当時のものです。
 
 
普段は病院の臨床検査で業務されているという佐原さんですが、クライミングとの関わりから教えてください。

「19歳で地元の山岳会に所属して以来です。歩く登山より登攀主体だったのでビレイは当然のように行っていました。今はもう危ないのでやっていませんが、生身の人で『肩がらみ』(器具なしでのビレイ)の練習もしていました」

その後、国体で優勝も経験され、近年では審判員としてコンペで見かけることも多いですが、ビレイ講師としての活動はいつから?

「年々大会での選手レベルが向上して課題の難度も上がり、それとともにビレイヤーにも高い技術が要求されるようになりました。3、4年ほど前から時々大会でのビレイで危険な場面が見られ、当時の日本山岳協会も問題意識を持っており、審判業務が空いた時にビレイをしていたこともあって依頼されたのがきっかけですね。今はJMSCA主催や各地の山岳連盟に招かれる形で、ビレイに関わる理論から器具の操作などの実技まで教えています。講習会を行うことで改善されてきているのではないでしょうか」

あらためてビレイヤーの役割とは?

「完全なアシスト役で、ビレイヤーが悪ければ登れるルートも登れないし、良ければ本当に気持ち良く登れる。例えばコンペで僕がビレイヤーに入ると、僕のことを知っている選手からは『数手伸びそう』などと言われることもあります。個人としては嬉しいですが、運営側の立場としては選手がビレイヤーに差を感じてしまうのはあまり良くないことだと思います」

ビレイで大切なことを教えてください。

「第一に墜落の際にクライマーと地面等との空間を保ち衝突させないことです。次にクライマーにかかる衝撃力を減らすこと。さらには状況の判断を的確に行い、クライマーの動きを予測して対応する事が求められます。ある程度クライミングをしていないとこれらのことをするのは難しいのではないかと思います」

ビレイの面白さとは何ですか?

「クライマーをストレスなくスムーズに登らせ、墜落の際には安全に停止させることができたかでしょうか。岩場などでパートナーが墜落した際、体を壁などに衝突させず、かつ体にかかる衝撃力も減らして停止させられた時などです。後日、そのビレイのことが別の場所で話題になっていた時はなんだか嬉しいですね」

技術が低い人にありがちなことは?

「ビレイデバイスなど道具の使い方を理解していないことや練習が不十分なことが挙げられます。自宅でも練習できることをやらずぶっつけ本番だったり、道具を買えば技術も身につくと勘違いされていたり、取扱説明書を読まない方も多いです。また、常に状況が変化しているにもかかわらず行っている動作が同じだったりします。例えばある程度の高さまで登っているのに、クライマーが墜落した際に引かれるロープの反対方向に向かって体を動かす。これは衝撃力を増す動作になってしまいます」

コンペでビレイヤーが大変な場面は?

「どんな選手なのかキャラクターが判らない点です。慣れた選手なら登りやクリップ動作も早くその速度に対応しなくてはなりません。一方、リードに不慣れな選手だとクリップもままならず墜落してこないかと焦ります。選手はクリップできない状態でもさらに上を目指すので、その際の墜落は長い墜落になり制動もままならず、グランドフォールさせないか心配です」

制動がうまい人は、ビレイもうまいと。

「制動は車のブレーキのイメージ。急ブレーキを踏んでロックされたらもうコントロールできませんが、ABSの機能がついていると真っすぐ止まれ、ハンドルも切れる。いかに壁などに衝突させずコントロールして停止できるかということです。人間は怖いので落ちると反射的にガッと握ってしまう。そこで冷静に思考して動けるか。反射でやっているうちはうまくならない。ただ制動だけでなく、ロープの繰り出し引き込みもうまくないといけません。車の運転でブレーキが良くてもアクセルワークやハンドリングが良くないと意味がないのと同じです」

今後、取り組んでいきたいことは?

「スタンダードマニュアルを作りたいですね。今はまとめたものがなくて、やはりスタンダードとなるものを準備して今後はそれをベースに教えていくことが大事ですし、教えられる人を増やしていくことも大切だと考えています」

CREDITS

インタビュー・文・写真 編集部

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