FEATURE 55

独占インタビュー

ヤコブ・シューベルト トップで居続ける。世界王者の矜持


東京2020で最も頂点に近い男と言ってもいいだろう。2018年の世界選手権では、得意のリードに加えてコンバインドでも“初代王者”に輝いた。28歳、10年以上も世界トップクラスに君臨するスポーツクライミング界の牽引車が勝ち続けるための秘訣、五輪への意気込みを語る。

※本記事の内容は2019年3月発行『CLIMBERS #011』掲載当時のものです(インタビュー収録日:2019年2月14日)。
 
 
今回は代表合宿で来日されましたが、日本はいかがですか?

「日本は大好きな国の1つです。今回トレーニングキャンプをやると聞いた時もとても嬉しかったですね。日本には優秀なクライマーがたくさんいるので、一緒にトレーニングするのは楽しいですし、非常に良いジムもあり、また食べ物や文化などもすごく気に入っています。寿司のような伝統食も好きですが、日本はスープが美味しくて、ラーメンやうどんもお気に入り。どこに行っても食の美味しさが保証されているというのは、世界では珍しいことだと思いますよ。僕の経験ではイタリアと日本だけです」

気に入っていただけて嬉しいです。では本題に入ってヤコブ選手についてお聞きしますが、長年リードをメインに活躍されてきましたね。

「そうですね。というのも私たちの世代ではリードがメインで、ユースの大会もリードとスピードだけ。ボルダリングが競技種目になったのはその後でしたから。成果が出ていることもあり、リードは一番好きな種目でもありますが、今後はボルダリングも同じくらい僕にとって大事な種目になってくると思います。ボルダリングは課題による部分も大きいため、大会ではポーカーのような賭けになることもありますけど、この2種目はトレーニングの観点では似ているところがあります。リードで優れたスキルを身につけるためにはボルダリングのトレーニングが必要だという面があるので、これからは両方ともに力を入れていきたいと考えています」

 

ボルダリングでは昨年、W杯で2013年以来の表彰台を含む3度の決勝進出を果たしました。

「最近のボルダリングは難しさが増してきています。テクニカルな要素が強くなり、非常に大きなボリューム(ハリボテ)、スラブ、フレキシビリティ、ジャンピングへの対応力が必要になってきました。以前はボルダリングとリードの共通性がより高く、リードで重要とされるフィットネスや指の力などがボルダリングにも活きたのですが、昨今はもっと専門的なボルダースキルが求められるようになってきましたね。そこをレベルアップすべく昨年はかなり力を入れてトレーニングしたので、いくつかのファイナルに残れたことには満足しています」

東京2020オリンピックでスポーツクライミングの採用が決まった時はどう感じましたか?

「僕もIFSC(国際スポーツクライミング連盟)に参加して話し合いの場につく機会もあったので、オリンピック競技に向けた検討プロセスはよく承知していました。話を聞いた時はとにかく嬉しかったのを覚えてますよ。それはスポーツクライミングがどういったスポーツであるか、東京で披露できるという意味においてです。ただ競技形式については、3種目をコンバインドで行うのは最善ではないと考えています。2020年は3種目を複合することでチャンスを得ましたが、そこにはまだ妥協がある。3つの種目それぞれに3つのメダルという本来の形で採用されることを、今後の大会には期待したいですね」

東京2020への出場が決まったら、目標はやはり金メダルでしょうか?

「オリンピックという場においては、参加するすべての選手の目標はメダルだと思います。でもクライミングは出場選手枠が(男女各)20名とそれほど多くないため、まずは選出されることが大事です。僕自身はオリンピックに出る選手として十分に、これまでの成果や実力があると自負していますが、選考大会が限られているのでミスは許されません。確実に出場できるように集中して取り組んでいきたいです」

 

日本代表チームについての印象は?

「一般的にコーチと1対1での個人トレーニングに重きを置くという選手が多い中で、日本チームはともに学び合ってトレーニングをする、しかもチームとして楽しんでトレーニングをするということが見て取れますよね。ともに学び、切磋琢磨して強くなっていく。それが、チームのあるべき姿だと感心しています。もし何か足りていない部分があるとすれば、東京ですべてのジムを見たわけではありませんが、リードでベストと言える施設がないところでしょうか。リードで日本が特別強いという状況にないのも、そうした事情が関係しているのだと思います。ただ言い換えれば、そこに大きなポテンシャルがあるということ。今回我われが来日したのと同じように、日本の選手も僕たちの国でリードのトレーニングを行えば大いに効果があると思います。こういった形で双方の強みを活かし合いながら、やっていけるといいですね」

ヤコブ選手は2007年にW杯に初出場して以来、10年以上トップレベルで活躍を続けています。その秘訣は何なのでしょうか?

「トレーニングをする際にいつも重視しているのが、友人や仲間と行い、かつ楽しむということです。トレーニングを楽しむことができて初めて力になり、継続できる。自分の中で前向きなモチベーションを保つことができているというのが、一番の要因なのではないでしょうか。
また、年齢が上がってきたこともあり、以前より休養も大事にしてますね。トレーニングも量ではなく質を重視することで、十分な休養を取り入れながら行うことができます。あとは僕のスタイルにもつながるのですが、あまりリスクは取らず、安全を重視した形で戦うことによって、大会で多くの決勝に出ることができています。とても強い選手と対峙する時、そこに難しさがあるのは事実です。しかし常にリスキーモードでやっているわけではないということが、今まで継続できた秘訣でもあると思います」

最後に、今年の目標を教えてください。

「今年はオリンピックの代表権が懸かる、すごく特別なシーズンです。最もフォーカスするのは、東京2020の代表選手に選ばれるということ。8月の世界選手権で成果を上げられれば、おそらくそれが叶うと思いますし、この大きな大会で良い成績を残すことは常に目標であります。みなさん、東京でお会いしましょう!」

CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 窪田亮 / 撮影協力B-PUMP荻窪店

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PROFILE

ヤコブ・シューベルト (オーストリア)

1990年12月31日生まれ。2011年、14年、18年のリードW杯年間王者であり、12年と18年の世界選手権リード王者。ボルダリングでもW杯2戦で優勝経験を持つ。2種目でトップレベルにある世界でも数少ない選手の一人。

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