FEATURE 118

裏方プロフェッショナル #018

羽鎌田直人(大会運営/テクニカルデリゲイト)

五輪でも、選手にとってベストな環境を

これが私のクライミング道。舞台裏で“壁”と向き合うプロに迫ったインタビュー連載。第18回は、JMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)の貴重な若手として大会運営の中心を担い、東京2020組織委員会では各所と調整を重ねてクライミングの“五輪デビュー”に尽力する羽鎌田氏を取材した。

※本記事の内容は2021年3月発行『CLIMBERS #019』掲載当時のものです。
 
 
日本代表選手として2016年まで各カテゴリーで活躍された羽鎌田さんですが、現在は活動の場を大会運営に移されています。携わるようになったのはいつからでしょうか?

「大学に入ってからです。インカレのような大会をスポーツクライミングでも作りたくて、選手を続けながら『全日本大学スポーツクライミング協会』の立ち上げに関わりました。セッター業に目を向ける選手が多い中、そこで私は運営や審判への興味が深まっていったんです。東京で五輪が開催される可能性が出てきた時には『開催国なのに国際レベルのジャッジがいないとマズいのでは』と思い、(現在日本唯一となる)審判の国際資格も取得しました」

現在、国内公式大会には「スポーツマネージャー」や「テクニカルデリゲイト」という肩書きで関わることが多いですよね。それぞれどのような役割でしょうか?

「どちらも『競技運営に関する責任者』で、国内大会では現場寄りの動きが多いです。準備が主な『スポーツマネージャー』は、大会の2カ月前から動き出します。中継カメラの位置替えやラウンド間の選手インタビュー、課題のセット替えなどそれぞれの時間を考慮して、『ここは10分じゃダメだから15分取らないと』という具合に調整を重ねながら競技スケジュールを考えます。ルールに則って準備が進んでいるかもチェックします。当日の競技進行を管理する『テクニカルデリゲイト』は、遅れが生じた際にリスケジュール案を早急に考え出さなければなりません。例えば競技の制限時間が1人6分のところ、実際は5分30秒だろうと仮定していた時に、多くの選手が6分まで競技をした場合は後ろが詰まってしまいますよね。瞬発力が求められ、大変です」

この仕事のやりがいとは?

「やはりトラブルなく終えることができた時です。大会は“生もの”なのでアクシデントが付きものですが、それも含めたイベントの雰囲気を楽しんでやっています。選手や観客をはじめ、多くの方に喜んでもらえるものを作り出せる面白さもありますね」

国内大会の運営に参加しながら、現在は東京2020組織委員会に籍を置いて今夏の五輪開催に向けた準備を日々進めているそうですね。

「スポーツクライミングの技術面のマネージャーとして、競技日程やホールド、壁のパネルなど必要な物資の調達リストを国際スポーツクライミング連盟と連絡を取り合いながら決めています。クライミングの大会運営という意味では国内大会と共通する部分が多いのですが、東京2020のためだけに立ち上がった組織なので、公務員から民間人、私のような競技専門の人間まで様々な人がいます。イベント運営経験のない方、スポーツクライミングを詳しく知らない方もいる中で、きちんとこの競技のルールや仕組みを説明しながら話を進めていくことは簡単ではありません」

スポーツクライミングの“五輪デビュー”を裏側から支えることは、羽鎌田さんにとってどのような意味がありますか?

「もちろん、初めてこの競技が採用される五輪に携わることができてとても嬉しいですし、今後国内大会の規模がさらに大きくなれば、組織委員会のように多くの人と関わる機会があると思います。そのための貴重な経験をさせてもらっているので、ありがたいですね。スポーツクライミングを世界中の人に観てもらえるこれだけの機会というのは、今までになかったと思います。『登る』という上部に垂直方向の動きをするこの特殊なスポーツの面白さを知ってもらうため、滞りなく放送され、世界に伝えられるようにしていくことが私たち裏方の役目です」

コロナ禍で五輪は1年延期となりました。

「選手にとってのベストな環境を整えるべく、感染対策も考えながら動いています。中止は考えず、『開催する』という前提でずっと準備を進めています」

今後について教えてください。

「国内大会では運営の人材確保が一つの課題になっています。大会運営に携わると、人との繋がりが生まれますし、支え合いの中で何かを作り出せるという、チーム競技ではないクライミングをしているだけでは得られない楽しさがあります。選手が活躍するフィールドを用意する大会運営の楽しさを、もっと広めていきたいですね」

CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 窪田亮

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