FEATURE 113

ユース代表ヘッドコーチ、西谷善子に聞く

ユース日本選手権とスポーツクライミング界の未来


5月29日、30日に富山県で開催される「第9回リードユース日本選手権南砺大会」。ユース日本代表のヘッドコーチを務める西谷善子氏に、この大会の位置づけや2021年の代表選考、若い世代に対する新たな取り組みなどについて聞いた。

※本記事は『第9回リードユース日本選手権南砺大会 公式プログラム』に掲載されたインタビューを一部加筆、再構成したものです。
 
 

2021年のユース日本代表選考は
パリ五輪に照準を合わせた内容に

今年も5月29日、30日に富山県南砺市でリードユース日本選手権が開催されます。どのような役割を持つ大会でしょうか?

「その年のユース日本代表を決める選考大会になっています。この他、今年3月に第1回を迎えたスピードユース日本選手権(京都府亀岡市)、ボルダリングユース日本選手権(4月に鳥取県倉吉市で開催予定だったが延期)が同様の選考大会です」

2021年のユース日本代表選考はどのような方針で行うのですか?

「リードとボルダリングによる2種目コンバインドと、スピード単種目で行われる2024年パリ五輪を意識した内容になっていて、各単種目で強い選手、2種目複合で強い選手を選考し、2024年の活躍を目指した強化育成を図っていきます」

2021年はどの大会がユース日本代表の派遣対象になりますか?

「8月の世界ユース選手権(ロシア・ヴォロネジ)とアジアユース選手権(日程場所未定)を予定しています。ボルダリング、リード、スピードそれぞれで代表選手を選び、派遣します」

ユース代表は年齢別でカテゴリーが分かれていますが、あらためてその構成を教えてください。

「その年の12月31日時点で達している年齢が14、15歳の『ユースB』、16、17歳の『ユースA』、18、19歳の『ジュニア』の3つのカテゴリーで構成されています。“12月31日時点”ですので、選手によっては選考大会時に13歳であっても代表資格があることになります(2021年の場合は、ユースBは2004年、05年生まれ、ユースAは2006年、07年生まれ、ジュニアは2002年、03年生まれ)。これらのカテゴリー分けは、IFSC(国際スポーツクライミング連盟)の規程に則っています」

年齢を満たしていれば、誰でもユース代表に選ばれる資格がありますか?

「この年齢に当てはまり、さらにJMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)の登録選手規程に従ってA登録をしていなければなりません。A登録を完了するには、倫理研修やアンチドーピング研修を毎年1回、受けることになります。年齢とA登録。この2つを満たしたうえで、選考大会である各種目の『ユース日本選手権』に出場する必要があります」

今年の代表選考基準を教えてください。

「今年は男女各カテゴリー、種目ごとに最大3名までを国内選考します。ユース代表への一番の近道は、その種目のユース日本選手権で優勝することです。パリ五輪で2種目複合が採用されることを考慮して、ボルダリングの優勝者はリードに、リードの優勝者はボルダリングのユース日本代表に自動選出されます。これでボルダリング・リードの代表枠は2枠が埋まることになりますが、残る1枠はコンバインドポイントで決定します。まずユース日本選手権の2種目両方に出場した選手のみを抽出して、その中で順位を振り分けます。そして順位の値を掛け算し、その数字が最も小さい選手がカテゴリー3人目のボルダリング・リード代表として選出されます」

ボルダリング・リードは必ず3名を選出する一方で、スピードはそうとは限らないようですね。

「はい。スピードユース日本選手権の優勝者以外は、基準タイムをクリアする必要があり、その中の上位選手から最大2名を追加選考します。その他の詳しい選考基準は、JMSCAの公式サイトに掲載しています」

 
2021年 スポーツクライミングユース国際競技大会派遣選手選考基準
 
※6月13日までにリードユース日本選手権、ボルダリングユース日本選手権の両大会が開催されなかった場合などについて、5月17日付で選考に関する補足資料が発表されました
【重要】2021年スポーツクライミングユース国際競技大会派遣選手選考基準における世界ユース選手権大会派遣に関する補足資料

 
 

大会至上主義の抑制を
ユースC以下は「もっと楽しく」

国際大会も「ジュニア」、「ユースA」、「ユースB」の3カテゴリーで行われていますが、ユース日本選手権では昨年までの数年間、それらとは別に「ユースC」が設けられていましたよね。それが今年から無くなりましたが、その意図を教えてください。

「まだ詳細を詰めている段階ですが、ユースC以下の年代に対しては競技自体を楽しんでもらうことに主眼を置いた取り組みをしていきたいと考えています。低年齢層からの勝利至上主義が高まっていることに懸念を感じていて、それを抑制していくと言いますか」

かなり若い年代から大会が最も重要であるかのような意識が根付くことに対して、問題意識があった?

「はい。競技人口が増え、近年はさらに拍車がかかっている印象を受けていました。その年代には、もっとクライミング自体を楽しんでほしいという想いがあります。これまでユースCの選手がユース日本選手権に出場するには、他カテゴリー同様にA登録が必須になっていました。ただ、そこで実施している義務研修がもっと上の年代を意識した内容になっていたので、内容が難しかったり、伝えたい想いとのズレがありました。保護者の方と、子どもたちそれぞれに身につけてほしい内容の講習を設けて、協会から情報発信していきたいと考えています」

他の国はどのような考えなのでしょうか?

「ユースC以下の年代に関しては大会の活発化に反対の国が多いです。フェスティバルのような形で大会が開催されて、参加者には“みんな頑張ったで賞”みたいなものが与えられるところもあります。私たちJMSCAも、大会競技はユースの国際大会に出場できる年齢になり、振るいにかけられる機会も増えてくるユースBの年代から頑張り始めればいい、という想いを持っています。競技人生は長いですから」

 
 

クライミングは体づくり、思考能力向上に好影響
運動が得意ではなくても、トップ選手になれる

確かに近年、クライミングは習い事としても人気で、特に小学生の競技人口が増えてきていますよね。幼少期からクライミングに触れることは体づくりにおいて有効だと思いますが、西谷さんはどう感じていますか?

「有効だと思いますね。頭を使い、さらに全身運動なので、小さい頃からやっていると様々な動きを身につけられます。昔は屋外にある遊具で運動能力を高める機会が多いように感じましたが、最近はジャングルジムなどが危険性の観点から学校に置けなくなり、その代わりにクライミングを始めたという話を聞いたこともあります。クライミングは小さい頃から必要な運動要素をたくさん身につけられるスポーツで、習い事にも最適だと思いますね」

取材などを通して選手と会話すると、かなり若い層であっても、クライマーは論理的思考能力が優れているように感じます。

「私もそう感じています。ユース代表の研修で、クライミング以外のスポーツをしている選手とコミュニケーションを取る機会があるのですが、その同年代の子たちと比べてもクライミングの選手は受け答えがはっきりしているし、自分の意見、自分の考えをきちんと話せるケースが多いです。クライミングをしているからなのか、それともクライミングジムで大人と話す機会があるからなのかわかりませんが、ただ『オブザベーション』がその要因の一つにはあると思います。オブザベーションは自分の体の能力と、今できるクライミングの能力を理解する必要があるので、より客観的に自分自身のことを見られるし、与えられた課題を自分がどう登るか客観的に考えられます。オブザベーション能力が高い子ほど、そういった受け答えができているのではないかと思います」

若年層で言えば、これまで野球やサッカーに集まりがちだった運動神経の良い子どもが、クライミングをするようになってきていると聞きます。

「確かに、以前に比べると何割かはそういった層が増えてきています。ただ、運動経験が豊富で、スポーツが得意な人であっても、決して日本代表になれるわけではない。運動が得意ではない人でも楽しめるし、トップクラスになれるのが、クライミングの面白さであり、奥深さだと思っています」

CREDITS

取材・文・写真 編集部 / 協力 JMSCA

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PROFILE

西谷善子 (にしたに・よしこ)

JOC専任コーチングディレクター、日本山岳・スポーツクライミング協会強化副委員長。2008年から日本代表スタッフに加わり、現在はユース代表ヘッドコーチを務める。

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