「Re;CLIMB」イベントレポート 藤井快らがクライミングの基本フォームを伝える

 「より強く、より健康的で、より長くクライミングを続けるために今からできること」をテーマとしたイベント「Re;CLIMB #LongerHealthierLife」が12日、クライミングジムPUMP系列を運営するフロンティアスピリッツ(以下FSP)主催により「B-PUMP荻窪」(東京都杉並区)で行われ、現役世界王者の藤井快らが登場。およそ1時間に渡り熱いクライミング談義を繰り広げた。

 イベントには昨年の世界選手権でボルダリングを制した藤井、FSPが発行したテクニックガイドの金字塔『CLIMBER’S BIBLE』(クライマーズバイブル)を監修したパフォーマンスビルダーの三浦千紗子氏、人気ブログ『Mickipedia』管理人の植田幹也氏が登壇し、その模様はYouTubeでもライブ配信された。

イベントには(右から)藤井快、三浦千紗子、植田幹也の3人がゲストとして登場した

 「より健康的で、より長くクライミングを続けること」を考えた時に重要なのは、やはり「ケガをしないこと」。はじめにクライマーのケガについて問われた三浦氏は「クライマーは肘から指先にかけてのケガが多過ぎるというのが私の印象」と答え、肘、前腕、手首、指に故障を抱えるケースが多いことを指摘。「手は自由かつ繊細に動かすようにできているのに、クライミングではホールドに手を当てて、さらに支えて力を出している」と、クライミングでは本来の手の動きとは真逆のことが求められるためにケガが多くなりがちだと説明した。藤井はこれに加え、「昔は細かいホールドを握るような動作が多かったが、最近は課題の傾向が変わったことで膝や肩にテーピングをする選手が増えている」と、ホールドの巨大化につれて動きのバリエーションが増え、それによって故障する範囲も拡大している実情を明かした。

 さらに三浦氏が気になっていることとして挙げたのが「姿勢の悪さ」。骨盤から上が曲がった状態で登るクライマーが多いと感じているといい、姿勢の大切さを知るテストとして「椅子に座り、骨盤から腰にかけてを曲げた状態で万歳する時と、まっすぐ立てた状態で万歳した時では体の引っかかりが違うと感じるのでは」と問いかけ、姿勢の悪い状態で登り続けることでもケガをしやすいと警鐘を鳴らした。その場で実践し、「(曲げた状態と真っ直ぐの状態に)とても差を感じる」と同意した植田氏は、クライミングについて「毎回取り組む対象(課題)が変わることが最大の特徴で、面白さでもあるが、それゆえに野球でいう素振りのような基礎練習が浸透しておらず、またオンサイトに価値が置かれ、そこに根性論も乗っかってくるので、それらがケガをしやすい要因になっていると感じる」と持論を述べた。

姿勢を正すとスムーズに両手が上がった

 話題が藤井の目指すクライミングスタイルに及ぶと、藤井は「1つの大会の予選から決勝まで全13課題をすべて一撃したいと思っている」と“13完13撃”を追い求めているとし、そのためには「すべてのパフォーマンスをアベレージ高く。指も、体も、柔軟性も、すべての要素が必要」と力説。さらに「ゴールはないと思っている。完成度で言ったら今は30%くらい」と、世界王者であってもクライミングを極めるにはまだまだ遠い道のりだとした。

 植田氏から理想のクライマーを聞かれた藤井は「圧倒的にヤンヤです」と即答。東京五輪女子金メダリストのヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)を推す理由として「パワフルな動きもできるし、コーディネーションもできて柔軟性も高い。動きを一つひとつ分解してもすべてが理に適っていて、僕の体じゃできないと思わされる瞬間が多い」ことを挙げ、さらに「僕は女性のクライミングを観ているほうが参考になったりする」と続けると、三浦氏は補足するように「パワーで解決しやすい男性に比べて、元来の筋量が少ない女性は体を上手に使わざるをえない。さらに柔軟性も高いので、姿勢が良くなりやすい」と解説。ヤンヤについては「常に壁の中での姿勢が良い。どんなに悪いムーブの時でも必ず骨盤から上が真っ直ぐになっていて、かといって力むわけでもなく、自然な状態でいる」と絶賛した。

『クライマーズバイブル』に収録されている「ローライズ」を実演する藤井。今もトレーニングの一環として取り入れているという

 話が尽きない中、ここで『クライマーズバイブル』に収録している壁を用いたトレーニングの一種「ローライズ」を藤井が実演して紹介。持ちやすいホールドを両手で掴み、足は適度に開いて、骨盤から腰にかけてを真っ直ぐに保ちながらその場で上下運動を繰り返すことで、姿勢の良い基本フォームが身に付きやすくなるという。

肩を落とし、股関節を閉まって出すという動作を繰り返す。下がる時に腰が丸まりがちになるので、真っすぐをキープする(写真:編集部)

 三浦氏は「姿勢が良いと上半身の負担が減り、ケガの防止やパンプのしにくさに繋がる。植田さんが話した野球の素振りに相当する」と話した。準備運動を兼ねて10回ほどローライズを行った後に、そのフォームを意識しながら簡単な課題をいくつか登るとより身に付きやすいという。藤井は昨年9月の世界選手権前に1~2カ月ほどローライズに取り組んでいたことも、優勝の一因になったと感じているのだとか。また、同じく基本フォームの習得に効果があるという「スクワット」も続けて紹介。こちらも骨盤から上を真っ直ぐにし、さらに自宅の手すりなど何かを手に持ちながら行うとより実戦的になると説明された。

「下から上に力を伝える」動作のあるクライミングに効果的なスクワット。おへその裏側が常に真っ直ぐとなるように意識すると良い。回数と頻度に答えはなく、自分の納得できるまで行う。藤井は30回×5セットなのだとか(写真:編集部)

三浦氏は競技人口が増えている小学生に向けて「球技や全身を使う体操、水泳など、クライミング以外のスポーツに親しむことも大事。それによって体の土台が作られ、ケガに困らず生涯に渡ってクライミングを楽しめる」とアドバイスを送った

 最後に藤井は「僕は今年で30歳になるが、それでも結果を残せてきたのは基礎的なトレーニングを反復して行っているから。体が壊れにくいと、ハードなトレーニングができる。ハードなトレーニングができると、強くなれる。まずケガをしないことが(強くなるための)大前提になると思う」と健康であることの大切さを語り、イベントを締めくくった。

「Re;CLIMB」アーカイブ動画

(協力:森永製菓 / adidas TERREX)

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CREDITS

取材・文 編集部 / 写真 PUMP

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